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O plus E誌 2011年8月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『黄色い星の子供たち』:つらい映画だ。ナチスのホロコーストものは,どの映画を観ても胸が痛む。本作は,1942年ナチス占領下のパリが舞台で,仏政府がユダヤ人を一斉検挙し,ポーランドへと送り込んだ暴挙を描く。50年後に仏政府が公式に認めた史実らしいが,この映画を観るまで知らなかった。忘れるべきでない出来事を映画として描いておこうという意図だろうが,それを見せられる方は,やっぱりつらい。自らも移送されるシェインバウム医師役をジャン・レノ,赤十字から派遣された看護師アネット役を『オーケストラ!』(09)のメラニー・ロランが演じる。彼女の美しさは群を抜いているが,収容されるユダヤ人の大半が整った顔立ちであり,子供たちは皆可愛い。この描写も贖罪意識からなのか。
 ■『忍たま乱太郎』:尼子騒兵衛原作で,NHK教育テレビで長年放映されていた国民的人気アニメの初の実写映画化作品だ。これが東宝か東映作品であればスキップするところだったが,ワーナーの邦画作品で,監督は何でも撮る鬼才・三池崇史というので食指を動かされた。平幹二朗,中村玉緒,松方弘樹,鹿賀丈史,竹中直人,石橋蓮司,柄本明,寺島進,中村獅童,檀れいという共演陣の顔ぶれを見ただけで,気合いの入れ方が感じられる。並みのお子様映画ではない。主人公・乱太郎役の加藤清史郎君の丸いメガネが可愛く,忍者姿も決まっている。アニメ版キャラより「アラレちゃん」に近い印象だが,ハリー・ポッターにも似ている。そーか,『忍たま』は「和製ハリポタ」で,「忍者学園一年は組」は「ホグワーツ魔法魔術学校グリフィンドール寮」に相当する存在だったか。冒頭からの小気味良いギャグの連発で,子供たちにはハリポタ最終編よりも楽しいに違いない。大人も十分楽しめるが,このペースで100分は長く,途中でCM休憩が欲しいと感じた。
 ■『モールス』:話題を呼んだスウェーデン映画『ぼくのエリ 200歳の少女』のハリウッド・リメイク作である。監督・脚本は『クローバーフィールド/HAKAISHA』(08)のマット・リーヴス,少女・少年役に『キック・アス』(10)のクロエ・グレース・モレッツと『ザ・ロード』(09)のコディ・スミット=マクフィーを配したというだけで,その意欲が感じられる。舞台は米国の田舎町に,少女の名前はアビーに変更されているため,本作の邦題は原作小説を踏襲している。セリフも構図もかなり前作に忠実なリメイクだ。それでいて,新しい魅力が備わっている。両子役の演技力と繊細な余韻を残す音楽の賜物だろう。ヴァンパイア系ホラーとしても,少年少女の純愛ものとしても極上の仕上がりだ。
 ■『こちら葛飾区亀有公園前派出所 THE MOVIE ~勝どき橋を封鎖せよ!~』:国民的アニメ『忍たま』の実写化に対するは,ギネス記録をもつ長寿国民的コミック『こち亀』の再映画化版だ。副題からして,東宝の『踊る大捜査線』シリーズを意識していて,映画化に際してのスケールアップは東映の『相棒』シリーズに負けじという意気込みが感じられる。「釣りバカ」シリーズ終了後の松竹にとっては,長寿化してドル箱にしたいところだろう。人気者「両さん」を演じるのは,SMAPの香取慎吾。少し演技過剰気味だが,物語が進むにつれ,この役は似合っていると感じる。クライマックスでの奮闘は織田裕二よりもカッコ良く,事件解決後のヒューマンドラマも松竹映画らしい味付けだ。スカイツリーをバックに,川沿い土手や地元商店街を行く「両さん」の姿は,既に「寅さん」の後継者を意識していると思える。若い母親役を演じる深田恭子が可愛いが,次作以降,どんなマドンナを登場させてくるのかも楽しみだ。
 ■『この愛のために撃て』:上映時間はたった85分のフランス映画だが,中身はぎっしり詰まっていた。平凡な看護士が殺人事件と腐敗した警察内部の陰謀に巻き込まれる話で,ノンストップ・アクションが心地よい。とりわけ,地下鉄構内でのチェイス場面が秀逸だ。『96時間』(09年8月号)を楽しんだ読者なら,この映画も必ずや気に入るに違いない。そういえば,この主演男優はリーアム・ニーソンに少し似ている。映画史には何の足跡も残さない娯楽作品で,半年もしたら忘れる存在だろうが,入場料分はしっかり楽しめる。欠点は,邦題に工夫がなく,印象に残らないことだ。ここは短い片仮名タイトルにすべきだったと思う。
 ■『ジョン・レノン,ニューヨーク』:題名通り,「ビートルズのジョン」を卒業したジョン・レノンが,故国を離れ,71年9月からNYに移り住み,80年12月に凶弾に倒れるまでの9年間を描いたドキュメンタリーである。同時代を生き,ビートルズ中期まで彼の歌唱と作詞作曲能力をこよなく愛した筆者も,平和運動家としての奇行は理解できず,この時代のジョンを好きになれなかった。世界的に解放運動,反戦運動の嵐が吹き荒れる中で,ベッドインも主夫業も,1人の成功者の気まぐれや奇行としか映らなかった。その想いは,改めて秘蔵映像や貴重なインタビューを観ても変わらない。ただし,その心情や日常生活がどうあろうと,その音楽やパワフルな歌唱を聴いただけで,歴史に残した意義は感じられる。音楽家は音楽だけで勝負すべきという象徴だ。本作は,オノ・ヨーコの全面的な協力・監修の下で制作されたらしいが,その点を割り引いても,あれほど嫌いだった彼女が,今はとても魅力的な女性に見える。筆者もまた,多くのファンと同様,ジョンの魂を奪ってしまった彼女に嫉妬していただけに過ぎなかった。
 ■『ツリー・オブ・ライフ』:ものすごい映画だ。本年度カンヌ映画祭パルムドール受賞作という冠がなくても,誰もが前半1時間の圧倒的な映像美に「凄い」と嘆息するしかないだろう。保守的で厳格な父親(ブラッド・ピット),宗教心が篤く優しい母親(ジェシカ・チャステイン)と3人の息子たちの40年間の日々を通して,生命と神の根源的な問題を描いている。監督は寡作で知られるテレンス・マリック。人類の誕生と生命の神秘を描くパートは「映像交響詩」とでも呼ぶべき圧倒的な映像で,カメラワークも構図も様々な短い映像の配置順序も,とにかく印象的だ。これぞ映像芸術だ。CG/VFXも駆使されている。メイン欄で取り上げたかったのだが,その画像は提供されないので,止むなく短評欄に留めた。中盤以降の父と子の相克の物語は達者な演出で,抜擢した子役の演技も見応えある。大人になってからの長男をショーン・ペンが演じるが,終盤が難解だ。『2001年宇宙の旅』を意識し,意図的に難解にしたのではとさえ思える。決して楽しい映画,ワクワクする映画ではないが,前半の映像美に対しては最高評価を与えるしかない。カンヌの審査員達も同じ思いだったに違いない。
 ■『うさぎドロップ』:ひょんなことから祖父が遺した隠し子の幼女を育てることになった27歳の独身男の子育て奮闘記を描く。洋画のホームコメディにもよくあるテーマだが,現代日本の少子化時代に,イクメン(育児に積極的な男性)を応援する映画だそうだ。原作は宇仁田ゆみ作の人気コミックで,主演は松山ケンイチ,天才子役の芦田愛菜だ。監督はてっきり女性だろうと思ったら,俳優出身のSABUだった。監督にも脚本にも才能があり,シリアス系が得意と思っていたので,このほのぼの映画のメガホンは意外だった。なるほど,ダンスのシーン等,随所に男性視点だなと思わせるシーンはあったが,ズバリ言って,女性原作者のコミックの演出には向いていない。低予算なのは仕方ないが,彼はこんな緩い映画で才能を浪費してはいけない。
   
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